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冬が終わる。記録的な豪雪の名残の汚らしい雪も解け始め、春のにおいが香ってくる。

「何回目だろうね」

夜のとばりよりもっと深い闇の中で、白銀の体毛を持つ狐の獣人が煙管をふかす。
幾重にもかけられた布の中、不思議な香りのするお香を焚き染めたこの部屋は、みあかしの自室だ。
滅多なことでは人を入れないその部屋に、影の国の王、スカアハが本来の姿でみあかしの向かいに腰を下ろしている。
行燈の緩やかな灯りだけに照らされた二人は、異形と言うに相応しい。

「何回目、とは?」

「春さ。何回春が来たのか覚えてるかい?」

「さて」

季節を数えることなどとうにやめてしまった、とスカアハは酒で唇を湿らせる。
ふわりふわりと九つの尻尾を機嫌よさそうにわずかに揺らすみあかしは、「それもそうだけど」とくすくす笑って見せた。

「若い子たちはまだ覚えているのかな」

「若者こそ、季節に頓着しないものではないかな」

「影の国に、四季はあるの?」

「どうだろうね」

火鉢でコンコンと煙管を叩き、みあかしはスカアハに向き直る。

「季節の流れを感じることが、時折つらく思えるんだよ、ぼくは」

スカアハは何も言わない。

「けれど時が止まってしまえばと思うこともできない。ぼくは終わらせたいんだ、全部」

「いずれ誰にでも、何にでも、終わりはくるよ」

刻み煙草を煙管に詰め、マッチで火をつけると深く煙を吸い込み、みあかしは敷き詰められたクッションに身を沈めた。

「いずれね、いずれ。自業自得だとわかっているから、大丈夫」

「みあかし、春はいつも同じにやってくるし、いつかきみが春を知らず眠る時がくる」

狐がきゅうと目を細める。春知らず、凍えるような冬の中で眠って、そのままずっと目覚めなければ。
スカアハは、それから何も言わず酒を少しずつ飲み下しているようだった。
紫煙を深く深く吸い込む。春の香りとは程遠いその味にぼんやりと、四季のめぐりに思いを馳せた。

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